Something New ~日本語教師アシスタント奮闘記~ その13 - オーストラリアの特派員コラム - コラム一覧

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Something New ~日本語教師アシスタント奮闘記~ その13

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2月4日・火曜日の続き...。

食事時のアイリーンとのコミュニケーションが薄い...と云うより取れない。どうしたものかと懊悩しても回答は出せやしない。
本当にカゴの中のカナリヤになってしまうのか...。
数日、一緒に過ごさせてもらって、親子のいるホストファミリーとの語らいを求めていたボクにとってアイタタタな感じだ。理想と現実の狭間で揺れ動いていた。理想は理想でとどのつまり絵に描いた餅なのだ。思い描いていたモノは幻想に過ぎない。現実を直視する他ない。



L字型に置かれたふたつのソファーにボクとアイリーンが座り、黙々と食事を摂りながらTVを見ている様は倦怠期を過ぎても尚変わらず諦めを通り越してしまった夫婦のようでもあり、壁を隔てただけで隣同士なのに何も交流もせず口すら利かない「隣の人は何する人ぞ」というマンションの住人たちのようでもある。
沈黙が怖い...。そして、むなしい。苦痛になりつつあるぞ...。まずい...。

ホームスティ代として毎週70ドル(約5000円)をアイリーンに支払うことになっている。この家賃は下宿とはいえ安いほうなのだ。相場からすると週90~120ドルが普通だ。なぜ、そういう設定で住めるからかというと、ボランティアを斡旋する会社のお達しで、現地の先生にお願いしているからだ。だが、この家賃の安さはホームスティ先がなかなか決まらない一因にもなっているようだ。
それくらいしてくれて然るべきだ...とまで云わないがそういった配慮があったっていいのではないか。それがなければ非常につらい。間に入っている旅行会社を通じてその斡旋する会社には自分が支払った研修費名目のけっこうなお金が流れている。その上渡航費用、生活費の全て自腹なのだ。
ここまでして、これが本当のボランティアなのかという疑問もあるが、右も左もわからない海外で生活をでき英語に触れられる安心料として、ふたつを天秤にかけて納得するしかない。
その英語に触れられていないというのがもう数日にして不満であるのだが...。


日曜日、月曜日に続き、当夜も夕方からビーチ・バレーボールの練習に連れてかれた。

ボールを追い、足を踏み込み、意を決して飛び込むと、砂が舞い上がる。その砂のミストがスローモーションを描くように霧散して地面に落ちる。
なんとか自分の手で捉えたボールだが見当違いのあらぬ方向に飛び跳ねてしまう。けっこう高い網でできたネットフェンスを大きく越えてしまうこともある。
ボールを追うのが関の山だ。サーブも上からでなく下からでしか撃つことができない。まだまだである。
砂とたわむれたることは海沿いに住んでいない限りそうそうあるものではない。このダーウィンに居た約1年間はおそらく一生の大半分は砂と交わることに費やされたと思う。


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陽気なおっさんビル。

ビーチバレーボールに明け暮れ、ビーチバレーボールを通じて知り合いができた。
ピーターの他にも同じく、アイリーンの同僚の数学教師トーニャ。心優しい姉さんタイプの女性だ。彼女は自分が12月にダーウィンハイを去るときに優しく慰めてくれた。
機械エンジニアのコリンと、その彼女で日本人のヨウコちゃん。このふたりダーウィンから程近いインドネシアのバリ島で知り合ったのだそうだ。
コリンは船などの機械を修理する仕事をしている。36歳のバツ一男で、別れた奥さんの方に実は子供もいるのだ。ヨウコちゃんが日本に帰ってしまったとき、彼女がいる実家・長野まで追いかけた経歴を持つ情熱的な男だ。このカップル、残念なことに紆余曲折があり、破局してしまった。

面倒見のいいミック。
世話好きなイベントごとによく誘ってくれたのがミックだ。彼は既に40歳を越えているが何事に関してもパワフルだ。彼との思い出はリッチフィールド国立公園に行ったブッシュウォーキングで自然の厳しさを教わった。(そのうち話に出てくる...)
そして彼の彼女でNTU(ノーザンテリトリー大学)で勉強しているこれまた日本人のトモコちゃん。
大学を卒業ということで、もう少しで日本に帰国する予定だ。
もうひとり日本人の男子もいる。ダイチ君という今時の日本人の彼もNTUの学生だ。なんとまあ、日本人がたくさん居るものだ。

州政府の仕事をしている(そうだ。多分...)ひよろっと背の高い寡黙なロン。彼もスキンヘッド。2メートル近くある身長で打つアタックは誰も止められない。スキンヘッドでギョロリとした目をしていて、見る者を圧倒する。やさしいやつだが数学教師のピーターと同じで見た目は怖い。たまに乗ってくる400ccのバイクがおもちゃに見えるのはボクだけであろうか。
後にアイリーンやピーター、ビル、ロンの居るチーム名は「Sig figs」ということもわかってくる。
ロンとピーターは「Sig figs」の両エースだ。

リチャードはスポーツ万能でテニスのコーチをやっている。しかし、あまり社交的ではなく、パーティーの時などたまにひとりぽつねんと孤立している。シャイなのかもしれないが、一番男性陣の中で若いのに...。オーストラリア人らしくもない。ダーウィンハイスクールの日本語の何人かの生徒も彼から教わっているようだ。
彼のもごもごと言葉を発していて、それでなくてもただでさえ英語が訊きとれないのにさらに理解不能に陥らせる。もごもごと話すそういうところだけは、いかにもオージーらしい。

アイリーンの元上司でダーウィン・ハイスクールで数学教師だったビル。現在は早々とリタイアして悠々自適な生活を送っているおじさんだ。本名はウィリアムス。
オーストラリアの人たちは定年制というのにこだわりを持っていない。ある程度老後の見通しができたと思ったら、さっさと仕事を辞して隠遁生活に入る。羨ましい限りだ。日本ではこの思想はまず考えられない。日本では老後の不安はいつまでたっても拭えない。見えないものに急き立てられて一生過ごす気がしないでもない...。
ビルはうるさいくらいのおしゃべりなおじさんだ。早口でまくし立て、しゃべっていることの半分くらいはわからない。
アイリーンは自分のところに球がこないと子供のようにへそを曲げたりする。そんな理由で、たまにアイリーンとビルの口喧嘩になるときがあるが、さすがに元上司でもアイリーンと口撃にはタジタジのようだ。まあ、大人だから先に折れるということだろう。


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幅が広がるし個性的な面々と知り合えたのはいいのんだけど、名前が覚えきれんよ...トホホ。
数学の先生トーニャにも紹介してもらったにも拘わらず、「職業は何ですか?」と訊く始末だし...。

まあ、こっちでいいのは欲得なしで、世代を超えて付き合っていることでしょうな。日本じゃ、そこそこ障壁があったりするからね。横のつながりより縦のつながり。世代間のギャップは自民党と共産党ぐらいの差はあるものだ。オーストラリアではそういうことは関係なく、垣根を越えた超党派で付き合うことができる。
それでも親しき仲にも礼儀ありということは底辺に脈々と流れていて、馴れ合い的な関係ではないようだ。
ユミさん以外の日本人の知り合いができたのはいいのだけれど、それこそなあなあにならないようにしないといけない。

ここでいろいろな友人に出会い、こういった仲間たちとつるんでいく。
自分の生活にたくさんの彩を与えてくれた彼らのことも後々に四方山話として登場してくることだろう。


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帰った後、当然の如く必ずシャワーを浴びる。
ここのフラットには日本のように湯船のあるフロ場というものはなく、シャワールームしかない。しかしながら贅沢にもシャワールームがふたつある。アイリーン部屋には洗面台とトイレの付いたシャワールームがある。だから、もう一方のトイレ付きのシャワールームはボク専用になった。

Tシャツや短パンの中のみならず、髪の毛の間や耳の中に砂という砂がこびりついている。ここの地らしく赤い土の混じった砂なので自分の黄色い皮膚が赤みがかっている。
運動後のシャワーはなかなか得がたい爽快感がある。生きている実感が沸いてくるようだ。
少しずつ温度の上昇した温水の飛沫が、勢いよく頭のテッペンに降り注ぐ。シャワーの口は固定されているので体を動かすことでまんべんなく隅々まで飛沫を当てさせる。
かいた汗とともに、砂を洗い流そうとするが、一回シャワーを浴びたところで赤土の成分だけはなかなか落ちないのだ。首筋や手、腕、腿、膝、足の指の隙間はうっすら赤くなったままだ。


心地よい疲れとともにベッドに寝転がる。
日本では30分ほどのタイマーをセットしてテレビを付けたままでなければ眠れなかったボクであったが、すぐに眠りに落ちた。
今日も一日が終わった...。



「Something New ~日本語教師アシスタント奮闘記~ その14」に続く。。。
(文・菅 雅壱)
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